20 スマート学習管理システム
Giuseppe Città and Manuel Gentile
Eラーニングと学習管理システム(LMS)
eラーニングの利用者は年々増加しています。eラーニングとは、教育者と学習者が空間的・時間的に離れている状況で、テクノロジーを介して行われる学習を指します。eラーニングの最終的な目的は、学習者の学びの体験と学習の実践をより良いものにすることです。
今日では、技術の進歩により、eラーニングは単体の機能を目的としたツールとしてではなく、学習を「提供」するためのシステム/プラットフォームとして捉えるほうが適切です。こうしたシステムは、複数のソフトウェアツールを統合し、学習者に応じて学習経路を柔軟に調整できる総合的な学習環境を構築します。eラーニングシステムは、学習プロセスとコース運営の管理を可能にします。学習評価、レポート作成、コンテンツの作成・整理を行えるほか、教師/チューターと学生間のコミュニケーションも促進します。広く利用されているeラーニングシステムの代表例として、学習管理システム(Learning Management Systems: LMS)(例:Moodle、Edmodo)があります。
LMSとは、異なるレベル・方法・分野における受講者¹の学習プロセスを管理するために設計された、Webベースのアプリケーションを指します。したがってLMSは、学習・コンテンツ・評価に関する活動やツールが実装される学習環境として定義できます。学習者同士、あるいは学習者と教育者の相互作用も、この環境内で実施・管理されます。さらに、LMSには一般的に、コース管理システム、コンテンツ管理システム、各種ポータル²などが含まれます。
LMSとAI:スマートLMS
AIの登場により、教育分野全般、とりわけLMSは、この革新的な技術³の有望な応用先として注目されるようになっています。とりわけ、AIによる機能拡張を備えたLMSは、将来の教育に求められる2つの基本的特性―個別化と適応⁴―を実現し得る、新たな学習ツールとして位置づけられます。このようにLMSにAIを組み合わせることで、スマートLMS(Smart LMS: SLMS)、すなわちインテリジェントLMSが登場します。
効率的なSLMSには、学習を最適化するために、次の3つの観点(情報の柱)からデータを収集・活用するアルゴリズムが備わっています。すなわち、①学習者、②教授法、③学習内容の領域です。学習者の嗜好や、情動・認知状態、達成度、目標といった情報を把握することで、SLMSは、対象となる学習内容(例:幾何の定理、数学的操作、物理法則、テキスト分析手続き⁴)に応じて、学習効果を最大化する教授方略(特定の評価方法、協働学習など)を選択し、実施できます。
したがってSLMSは、学習者が過去の課題で示した知識や技能に合わせて内容を調整し、学習者に提示するコンテンツを適応させることのできる学習システムと定義できます。実際、学習者中心のアプローチを採用することで、学習パターンや学習スタイルを記録しながら、学習者の学習経路を特定・追跡・モニタリングできます。Fardinpourら⁵によれば、インテリジェントLMSは、自動化や、学習者に合わせた指導の調整(足場かけ/scaffolding)、学習状況のレポート作成、学習データから得られる知見生成を通して、学習者にとって最も効果的な学習の進め方と、最適な学習内容を提供します。また、学習者が自らの学習や学習目標を追跡・モニタリングできる可能性も提供します。これらの機能やツールによってLMSはより賢く動作しますが、その一方で、SLMSでは、学習者が必要に応じて学習経路を自動で管理するAIをオフにし、学習環境内のすべての教材に自由にアクセスできるようにする選択肢も用意しておく必要があります。
SLMSにおけるAI支援機能の例
SLMSが適切に稼働していれば、前述した特徴を実現するためのさまざまなAI支援ツールを活用できるようになります。これらのツールは、学習者・教授法・学習内容の領域という3つの観点にまたがって働き、SLMSのアルゴリズムがそれらを参照しながら学習を支援します。
仮想チューターとしてのAI支援チャットボット
チャットボットとは、文字や音声による人間の会話を模倣し、やり取りを行うソフトウェアです。SLMSでは、学習コースに関する質問に答えるなど、仮想チューターとして学習者を支援できます。さらに、学習者の過去の成績や利用履歴を分析し、その結果にもとづいて学習方法や次に取り組む内容を提案することも可能です⁶。
学習分析
学習分析(ラーニング・アナリティクス)は、オンライン学習における学習者の行動ややり取りの記録(ログ)を分析する取り組みです。これにより、教師は学習者一人ひとりの進捗や学習状況をより詳しく把握できるようになります。その結果、特定の課題でつまずきが見られる学習者に対して、システムが自動的に補充課題を提示するなど、学習を補う支援⁷を行えます。さらに、課題の難易度の調整や、追加教材で補強すべき点について、教師へ自動的に提案することも可能です。
学習者と教師にもたらされる利点
これらを含むAI支援ツール⁴によって、SLMSは学習と指導を効果的に支援するツールになります。SLMSは教師の仕事を置き換えるのではなく、教育の人間的側面を支え、強化するツール⁸として機能し、学習・教育プロセス全体にわたって多くのメリットをもたらします。
SLMSは学習者の技能や到達度に合わせて学習内容を調整するため、学習の各段階で「簡単すぎて退屈する課題」や「難しすぎて挫折する課題」に直面しにくくなります。その結果、学習者の意欲や集中が保たれ、課題の難易度も適切なレベルに維持されます。さらに、つまずきの兆候を教師が早期に把握して速やかに支援できるため、離脱率(ドロップアウト率)の低下につながります。
こうした状況では、つまずきがある場合だけでなく、学習が順調に進んでいる場合でも、SLMSの機能を通して、コース内に蓄積された教材や外部提供コンテンツを適宜提示することで、学習を継続的に支援できます。これは教師にとっても大きな利点です。教材をその都度作り直す負担が減り、浮いた時間を授業改善や学習者との直接的なやり取りなど、より重要な業務に充てられるからです。
1 Kasim, N. N. M., and Khalid, F., Choosing the right learning management system (LMS) for the higher education institution context: A systematic review, International Journal of Emerging Technologies in Learning, 11(6), 2016.
2 Coates, H., James, R., & Baldwin, G., A critical examination of the effects of learning management systems on university teaching and learning, Tertiary education and management, 11(1), 19-36, 2005.
3 Beck, J., Sternm, M., & Haugsjaa, E., Applications of AI in Education, Crossroads, 3(1), 11–15. doi:10.1145/332148.332153, 1996.
4 Rerhaye, L., Altun, D., Krauss, C., & Müller, C., Evaluation Methods for an AI-Supported Learning Management System: Quantifying and Qualifying Added Values for Teaching and Learning, International Conference on Human-Computer Interaction (pp. 394-411). Springer, Cham, July 2021.
5 Fardinpour, A., Pedram, M. M., & Burkle, M., Intelligent learning management systems: Definition, features and measurement of intelligence, International Journal of Distance Education Technologies (IJDET), 12(4), 19-31, 2014.
6 HR Technologist: Emerging Trends for AI in Learning Management Systems, 2019, Accessed 31 Oct 2022.
7 Krauss, C., Salzmann, A., & Merceron, A., Branched Learning Paths for the Recommendation of Personalized Sequences of Course Items, DeLFI Workshops, September 2018.
8 Mavrikis, M., & Holmes, W., Intelligent learning environments: Design, usage and analytics for future schools, Shaping future schools with digital technology, 57-73, 2019.