41 授業で生成AIを使おう(2)
生成AIを活用するアイデア
1. 授業のプランニングやデザインに使う
「コースの内容を新しくしたい」「新しいトピックや活動を取り入れたい」「評価のためのルーブリック(評価指標)を考えたい」……そんなふうに思ったことはありませんか1,2?あるいは、新しいテクノロジーや教材を使って3、これまでとは違う教え方に挑戦してみたい、という時もあるはずです。
そんな時、チャットボットは心強いパートナーになってくれます。授業案のたたき台、学習目標、活動やプロジェクトの指示書、理科の実験手順、さらにはクラスでの議論を盛り上げるための問いかけなど、まずはAIに「下書き」を書いてもらうことができるのです4。
ヒント:AIにお願いする前に、「どんなトピックを扱うか」「どんな教え方をしたいか」「この授業で何を目指すのか(概念を理解させたいのか、手順を身につけさせたいのか)」をハッキリ伝えておくと、より納得のいく答えが返ってきますよ。2。
実践例:新しい単元を作ってみよう
出典: 『理科教育におけるChatGPTの検証:生成AIの探索的研究』5
使ったツール : ChatGPT
実際に出した指示(プロンプト): 「「中学1年生レベルで、再生可能エネルギーと非再生可能エネルギーについてよく理解している生徒たちに向けて、『5E指導モデル(導入・探究・説明・精緻化・評価)』を用いた、やりがいのある授業ユニットを作成してください。あわせて、内容に苦戦している生徒へのサポートや教育における足場かけ(スキャフォールディング:足場を組むように一時的な支援を提供し、徐々に支援を減らしながら自律的な学習能力を高める指導法)も提案してください」
振り返り:この研究の著者は、ChatGPTの回答を「最初の一歩」として非常に役立つと感じたそうです。もちろん、そのまま使うのではなく、生徒のニーズや学習指導要領、実際に使える教材に合わせて調整する必要はありました。
著者はこうアドバイスしています。「役に立たない部分は削り、良いなと思った部分を膨らませていけば良いのです」。 中身を磨き上げる手間は必要ですが、特にまだ教材のストックが少ない若手の先生たちにとって、これは非常に強力な手助けになるはずです。そして、著者は次のように振り返っています。
「5E指導モデルに基づいた理科のユニットを生成する能力には、正直驚きました。たとえ内容が少しありきたり(一般的)に感じられたとしても、ベースとしては十分なクオリティです。」
2. 楽しくて、誰もが参加できる「マルチモーダル」な教材作りに活用する
生成AIを使えば、いつもの授業トピックをパッと華やかに、そしてきめ細やかにアレンジできます。例えば、こんな使い方はいかがでしょうか?
- 身近な話題をプラスする: 地元のニュースや独自の文化、方言などを内容に組み込んで、親しみやすさをアップさせます。
- 視覚に訴える: 説明を補足するような、目を引く画像や動画を挿入します³。
- ストーリーで印象づける: 難しいテキストの内容を、覚えやすい「物語」に作り変えて紹介します。
- 概念図(コンセプトマップ)を作る: 複雑な情報のつながりをパッと見てわかる図にします。
- ポイントを整理する: 授業の大切な部分をハイライトしたり、別の言葉で言い換えたり、要約したりします。難しい語彙の解説もお手の物です⁶。
- 算数や理科を「見える化」する: 抽象的でわかりにくい数式や現象も、シミュレーションを見せたり、他の教科と結びつけたりすることで実感が湧くようになります。これは、アイデアを形にする図工や技術(工作教育)の時間にもぴったりですね⁷。
- 言葉の壁を取り払う: 翻訳機能を使って、マイノリティ言語を使う生徒たちの学びをしっかりサポートできます²。
ヒント: Midjourney(ミッドジャーニー)などの画像生成ツールには、世界中の人たちが作品や指示(プロンプト)のコツを投稿している専用のフォーラムがあります⁷。これから使い始める先生にとって、ここは最高の「ヒントの宝箱」になりますよ。
3. 例題・練習問題・クイズ作りに活用する
生成AIは、問題集を作るのがとっても得意なのです。例えば、こんな使い方ができます。
- データ作りをお任せ: 例題や演習に使えるような、表形式などのデータをサッと作ってくれます。
- 反復練習をサポート: 基礎的なスキルや、まだ知識が定着していない部分を強化するための練習問題と解答を作ります⁸。宿題でつまずいてしまった生徒にとって、これらはとても心強い参考資料になります8。
- 「なぜそうなるか」を解説: 解答だけでなく、その導き方も説明してくれます。特にプログラミングコードの解説などは、AIの得意分野の一つです⁹。
- 別解を見せる: 算数やプログラミングで、一つの問題に対して複数の解き方を提示できます。これにより、生徒たちは「こんな考え方もあるんだ!」と多角的な視点を持てるようになります。あえて「間違いが含まれている回答」を作らせて、どこが違うか分析させる……なんて使い方も面白いかもしれませんね⁹。
実践例:クイズを作ってみよう
出典: 『理科教育におけるChatGPTの検証:生成AIの探索的研究』5.
使ったツール: ChatGPT
実際に出した指示(プロンプト): 「中学1年生レベルで、再生可能エネルギーと非再生可能エネルギーの概念についてのクイズを作成してください。解答キー(正解一覧)も付けてください」
振り返り:著者が試してみたところ、ChatGPTが作った選択式クイズは、生徒たちがトピックを理解しているかどうかを確認するのに十分役立つ内容でした。一方で、著者はこうも付け加えています。 「先生たちは、AIが作ったものを常に自分の目で厳しくチェックする必要があります。最終的に、教育として正しい判断を下せるのは、先生自身の専門知識や経験、そして何より『自分の目の前にいる生徒たちへの理解』だけなのです」
例
出典: 『理科教育におけるChatGPTの検証:生成AIの探索的研究』5.
使ったツール:ChatGPT
実際に出した指示(プロンプト): 「中学1年生が、再生可能エネルギーと非再生可能エネルギーについての自分の学びを自己評価できるようなルーブリックを作ってください。」
AIが出力した回答(要約):ChatGPTは、「概念の理解」「リサーチ(調査)」「批判的思考」「授業への参加」という4つの評価基準を自分で考えて提示してくれました。
| 評価基準 | 見本となるレベル (Exemplary) | 習熟レベル (Proficient) | 向上中レベル (Developing) | 基礎レベル (Emerging) |
| 概念の理解 | 種類やメリット・デメリットを完璧に理解している | 大体理解しているが、いくつか細かい抜けがある | 理解が限られている | ほとんど理解できていない |
| リサーチ | 徹底的に調べ、わかりやすく整理して発表できている | よく調べているが、一部不明瞭な点がある | 調査が不十分で、発表内容も限られている | 全く調べていない、または関係ない内容である |
| 批判的思考 | 特徴を分析・評価し、将来に向けた賢い選択ができる | ある程度分析できているが、重要な視点が抜けている | メリット・デメリットを自分なりに評価できていない | 批判的思考のスキルが見られない |
| 授業への参加 | 議論や班活動に積極的に加わり、価値ある意見を出している | 参加はしているが、いつも価値ある貢献ができるとは限らない | 議論や班活動に積極的に参加できていない | 周りの学びを妨げるような態度である |
振り返り:著者は、ChatGPTが「理解度」や「リサーチ力」といった評価基準を自ら提案してくれた点を高く評価しました。それぞれの基準に対して4段階のレベル設定もしてくれました。ただ、実際の評価に使うには「基準の中身が少しあやふやで、具体的さに欠けるかな」とも感じたそうです。
実践例:一つの問題に対して、たくさんの「解き方」を考えてみよう
出典: 『ロボットがやってくる:初歩のプログラミング教育におけるOpenAI Codexの影響を探る』10.
使ったツール: Codex(コーディングに特化したAIで、指示に合わせて色々なプログラミング言語を書くことができます)
実際に出した指示(プロンプト): 実際の試験問題や教科書に載っているような、学生たちがふだん解いている「コード作成の問題」をそのまま入力しました。
出力:

振り返り:この研究の著者たちは、AIの出した回答を見て、同じ指示に対しても「バリエーション豊かな、いくつものコード」を生成できることに注目しました。しかも、ただ適当に作るのではなく、「その問題なら、普通こう書くよね」という、期待通りの王道な書き方をしっかり押さえていたそうです。
4 学びのバリアを取り払う
最後にご紹介したいのが、身体的な障がいや学習に困難を抱えている生徒たち、特に目や耳に不自由がある生徒たちの「学びの壁」を低くするために生成AIを活用することです。これについては、ぜひ皆さんに積極的に試していただきたいと思っています。
生成AIを使えば、字幕(サブタイトル)やキャプション、そして映像の内容を言葉で説明する「音声ガイド」などを簡単に作成できます²。 ユネスコの『教育と研究における生成AIガイドライン』でも、次のように述べられています。 「生成AIはテキストを音声に、音声をテキストに変換することができます。これにより、視覚や聴覚、あるいは発話に障がいがある人々がコンテンツにアクセスし、質問を投げかけ、仲間たちとコミュニケーションをとることを可能にするのです」²
さらに、皆さんが作った教材が「誰にとっても分かりやすく、使いやすいもの(インクルーシブでアクセシブル)」になっているかどうかを、AIにチェックしてもらうこともできるんですよ⁴。
AIの答えを疑うべし
もし生成AIを使ってみようと決めたなら、その「失敗」や「弱点」には十分に注意して、いつでも修正できるように構えておく必要があります。例えば、こんな落とし穴があります。
- 内容が不正確なことがある: 言語モデルは「知識の貯蔵庫」でも「検索エンジン」でもありません。最新のモデルでさえ、事実をでっち上げたり(ハルシネーション)、存在しない文献を引用したりします。特に数学や数値を扱うときにはミスが混じりやすく、その分野に特化して調整されたモデルであっても、計算ミスをしたり「数学的なデタラメ」を言ったりすることがあります¹¹。プログラミングも油断できません。生成されたコードに文法ミスがあったり、セキュリティ上の問題が含まれていたりすることもあるからです⁹。
- 偏った考え(バイアス)が入り込む: AIの学習データそのものに偏りがあるため、どうしても回答にバイアスが混じってしまいます。教育用に調整された「Ed-GPT」でさえ、完全にゼロにするのは難しいのが現状です²。
- 結果が安定しない: AIへの指示(プロンプト)の書き方や、これまでのやり取りの履歴、あるいは特に理由もなく、答えの質が大きく変わってしまうことがあります。
生成AIは先生の仕事を楽にしてくれる便利なツールですが、あくまで「ネット上の膨大なデータから作られた統計モデル」に過ぎません。このデータは、現実の世界や、そこにある複雑な背景、人間関係の代わりにはなれないのです。例えば、ChatGPTには今の状況(コンテキスト)を完全に理解することはできませんし、生徒の日常生活に何が影響を与えているかを説明することもできません⁴。現実世界の困難な課題に対して、これまでにない全く新しいアイデアや解決策を生み出すことも、実は苦手なのです²。
そして何より、AIの能力は人間の心の働きには及びません。人間は限られた情報からでも深く理解し、行動することができますが、AIにはそれが難しいのです。生成AIの「最大の欠陥」について、ある指摘があります。それは、知性にとって最も重要な力――つまり「何が事実か、何が過去だったか、何が未来か」を説明・予測するだけでなく、「何が事実ではないか、そして何が可能で、何が不可能なのか」を判断する力が欠けていることなのです¹²。
1 Tlili, A., Shehata, B., Adarkwah, M.A. et al, What if the devil is my guardian angel: ChatGPT as a case study of using chatbots in education, Smart Learning Environments, 10, 15 2023.
2 Holmes, W., Miao, F., Guidance for generative AI in education and research, UNESCO, Paris, 2023.
3 Enkelejda, K., et al, ChatGPT for Good? on Opportunities and Challenges of Large Language Models for Education, EdArXiv, 2023.
4 Trust, T., Whalen, J., & Mouza, C., Editorial: ChatGPT: Challenges, opportunities, and implications for teacher education, Contemporary Issues in Technology and Teacher Education, 23(1), 2023.
5 Cooper, G., Examining Science Education in ChatGPT: An Exploratory Study of Generative Artificial Intelligence, Journal of Science Education and Technology, 32, 444–452, 2023.
6 Kohnke, L., Moorhouse, B. L., & Zou, D., ChatGPT for Language Teaching and Learning, RELC Journal, 54(2), 537-550, 2023.
7 Vartiainen, H., Tedre, M., Using artificial intelligence in craft education: crafting with text-to-image generative models, Digital Creativity, 34:1, 1-21, 2023.
8 Bhat,S., et al, Towards automated generation and evaluation of questions in educational domains, Proceedings of the 15th International Conference on Educational Data Mining, pages 701- 704, Durham, United Kingdom, 2022.
9 Becker, B., et al, Programming Is Hard – Or at Least It Used to Be: Educational Opportunities and Challenges of AI Code Generation, Proceedings of the 54th ACM Technical Symposium on Computer Science Education V. 1 (SIGCSE 2023), Association for Computing Machinery, New York, 500–506, 2023.
10 Finnie-Ansley, J., Denny, P. et al, The Robots Are Coming: Exploring the Implications of OpenAI Codex on Introductory Programming, Proceedings of the 24th Australasian Computing Education Conference (ACE ’22), Association for Computing Machinery, New York, 2022.
11 Lewkowycz, A., Andreassen, A., Dohan, D. et al, Solving Quantitative Reasoning Problems with Language Models, Google Research, 2022.
12 Chomsky, N., Roberts, I., Watumull, J., Noam Chomsky: The False Promise of ChatGPT, The New York Times, 2023.