40 授業で生成AIを使おう(1)
「生成AIを使って、こんな授業をしてみたら?」と誰かに勧められたとき、あなたならどうしますか? あるいは、自分の中にアイデアはあるけれど、「具体的にどうアレンジすればいいのだろう……」と迷ってしまうこともあるかもしれません。
ここでは、皆さんがAIを使った教育活動を「評価し、選択し、そして実際にやってみる」のを手助けすることを目指しています。
ただ、このテクノロジーの進化はあまりにも速く、教科や状況によって「できること」もどんどん変わっていきます。そのため、先生が直面するすべての疑問に、あらかじめ答えを用意しておくことは不可能です。
ですから、この本では「最初の一歩」として、公的なガイドラインや最新の研究、事例に基づいた「考え方のヒント」をお伝えできればと思っています。
ここで一つ、大切な注意点があります。この本でご紹介するのは、あくまで「先生が」生成AIを使い、準備や工夫をする活動に絞っています。生徒自身が直接AIを使う活動については、今はまだ触れていません。なぜあえて生徒に使わせないのか、その理由は上のボックスにあるリンクから確認してみてくださいね。

「生成AIを教育に取り入れるなんて、まだちょっと抵抗があるな……」と感じている先生もいらっしゃるかもしれません。でも、そんな方にこそ、まずはどれか一つだけでも、AIを使った教育を試してみてほしいのです。
実際に触れてみることで、こんな発見があるはずです。
- 「できること」と「できないこと」がハッキリする: 生成AIに何が頼めて、何が頼めないのか、その境界線が見えてきます。
- 宿題や授業の構成を見直せる: 例えば、ChatGPTはエッセイを書くのがとても得意です1。そうなると、今まで通りのエッセイを宿題に出すのはあまり意味がなくなってしまうかもしれません。代わりにグループワークや実技、口頭発表など、「はい/いいえ」で終わらない多様な評価方法を考えるきっかけになります。
- あえて「限界」を逆手に取る: AIの限界を知ることで、逆に「人間にしかできない想像力やクリエイティビティ」を発揮しよう!と、生徒たちの意欲を引き出せるようになります2。
- 次世代の波に乗り遅れない: これからさらに進化したAIが登場したとき、今の経験があれば、あわてずに対応できます。
- 自分の「ゆとり」を作れる: 事務作業や準備の負担を減らしたり、これまで「時間がかかりすぎるから」と諦めていた新しいテーマに挑戦したりする余裕が生まれます。
- 新しい学びのスタイルを楽しめる: AIが登場した今だからこそ可能になった、新しい教育の考え方やアプローチを取り入れられます。
- 教育現場の声を届ける: 実際に使うことで、「教育用AIはこうあるべきだ」という開発や研究に、現場の視点から貢献できるようになります3。
ただ、このテクノロジーも活用法も、まだまだ「生まれたて」です。 そこで、ぜひおすすめしたいのが、AIを使った教育活動の様子を「日記や記録」に残しておくことです。どんなふうに進んで、どんな変化があったのか。記録があれば、あとで効果を振り返ったり、同僚の先生たちと「うちのクラスではこうだったよ」と情報交換したりするときに、とても貴重な資料になります。
指導法と実践についての「問いかけ」
教室で使えるアイデアは、今や誰でも提案できる時代です。でも、中にはテクノロジーの世界には詳しくても「実際の教室の空気感」をあまり知らない人の提案だったり、大学生にはぴったりだけど、中高生にはちょっと合わないアイデアだったりすることもあります。
たとえ一見良さそうな教育活動でも、それがしっかりとした「教育理論」や「現場での証拠(エビデンス)」に裏打ちされていないと、後になって思いもよらないトラブルや、期待外れな結果を招いてしまうかもしれません。
ですから、どんな教育活動を取り入れるときも、「これは本当に教育的に意味があるかな?」「自分のクラスで無理なくできるかな?」という、指導面と実践面の両方からチェックする姿勢を大切にしてほしいのです。

生成AIの中身をのぞいてみよう
生成AIアプリの心臓部には、「大規模言語モデル(LLM)」や、画像を作るための「拡散モデル」という仕組みが入っています。
言語学者のノーム・チョムスキーは、これをこんなふうに説明しています。「ざっくり言えば、膨大なデータを読み込んでパターンを探し出し、『統計的にありそうな答え』を出すのがどんどん上手になっていく仕組み4」なのだと。まるで人間が考えたり話したりしているように見えるのは、その高度な計算の結果なのですね。「BERT」や「GPT」「PaLM」といった名前を聞いたことがあるかもしれませんが、これらはすべてそのモデルの仲間です。画像版で有名なものには「Stable Diffusion」や「Midjourney」などがあります。
こうした「もとになるモデル」を、開発元や別の会社が「さらに訓練(ファインチューニング)」して、特定の仕事——例えば質問に答えたり、論文を要約したり——に特化させることがあります。 また、モデルに特別な指示(プロンプト)を組み込んだり、プログラミングを加えたりして、「ChatPDF」や「Pictory」のような、特定の用途に使いやすいパッケージアプリとして公開することもあります。
例えば、OpenAI社は「GPT」をもっと対話しやすく調整して「ChatGPT」を作りました。Googleのチームは、科学や数学のデータを使って「PaLM」を特訓し、「Minerva(ミネルヴァ)」というモデルを作り上げました。このMinervaは、物理や生物、経済学など、数値を扱う大学生レベルの問題の約3分の1を解けるほど、驚異的な成果を出しています5。
今も、教育現場で安心して使えるように、専門知識を加えたり、偏った考え(バイアス)を取り除いたりする「教育版GPT(Ed-GPT)2」のような研究が進められています。
そのAIが「特定の作業のためにどれだけ調整されているか」で、仕事のデキ(効率)は大きく変わります。また、一つの会社がすべて作っているのか、別の会社が手を加えているのかによって、安全性やプライバシーの守られ方も違ってきます6。
新しいツールに出会ったら、「もとになっているのはどのモデルかな?」「誰がどんなふうに手を加えたのかな?」という視点で、その得意なことや苦手なことをチェックしてみると、使いこなしのヒントが見えてきますよ。

あなたとあなたのクラスに「ぴったり」ですか?
たとえば、AIが提案する教育活動が教育目標をすべてクリアしていて、使っているAIツールも最高に使いやすく、倫理的にも文句なしだったとしましょう。それでも、あなたのクラスにそのまま当てはめればOK、というわけではありません。
他のあらゆるAIツールと同じように、一度で大成功!とはいかないこともあるでしょう。何度も微調整を繰り返しながら、少しずつ「これだ!」という形に近づけていくプロセスが必要です2。また、AIにうまく指示を出すコツ(プロンプトのテクニック)を学んだり、AIが出した答えを「本当にこれでいいのかな?」と厳しくチェックする練習をしたりすることも、ときには必要になるかもしれません1。
そして何より大切なのは、その教育活動があなたにとって「やってよかった!」と思えるものであり、一人の教師として大切にしている「信念」や「価値観」に寄り添ったものであることです。

1 Tlili, A., Shehata, B., Adarkwah, M.A. et al, What if the devil is my guardian angel: ChatGPT as a case study of using chatbots in education, Smart Learning Environments, 10, 15 2023.
2 Holmes, W., Miao, F., Guidance for generative AI in education and research, UNESCO, Paris, 2023.
3 Becker, B., et al, Programming Is Hard – Or at Least It Used to Be: Educational Opportunities and Challenges of AI Code Generation, Proceedings of the 54th ACM Technical Symposium on Computer Science Education V. 1 (SIGCSE 2023), Association for Computing Machinery, New York, 500–506, 2023.
4 Chomsky, N., Roberts, I., Watumull, J., Noam Chomsky: The False Promise of ChatGPT, The New York Times, 2023.
5 Lewkowycz, A., Andreassen, A., Dohan, D. et al, Solving Quantitative Reasoning Problems with Language Models, Google Research, 2022.
6 Enkelejda, K., et al, ChatGPT for Good? on Opportunities and Challenges of Large Language Models for Education, EdArXiv, 2023.